『シェアする落語 第21回 柳家わさび』を開催するにあたり、わさびさんにインタビューさせていただきました。一部は今回ご予約頂きましたお客様にご予約特典としてメール配信させていただいています。

インタビューは2018年3月28日 独演会『第108回 月刊少年ワサビ』終演後に行いました。文責は全て四家正紀(シェアする落語主宰)にあります。


柳家わさび(本名:宮崎晋永)
1980年8月24日生まれ
2003年11月 柳家さん生に入門 前座名「生ねん」
2008年3月 二ツ目昇進 「わさび」と改名
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撮影 : 常山剛

(02の続き)
わさび : 僕の世代では、他に内弟子経験者はいないと思います。
「大師匠のお宅の離れに住み込み」というケースはあるんですけどあたしの内弟子とはちょっとちがうかなと。離れだと、夜に抜け出してコンビニに行けるんですよ。

 それは合宿所みたいなもんですね。ほんとの内弟子というのは、いわば家族ですよね。
わさび : 家族だと思いますよ。師匠宅の二階・一番奥の部屋に寝てましたから。
窓には鉄格子はまってましたし、ドアに風鈴がついてて、開けたらカランコロンって音がする。トイレに行こうにも古い木造の二階だったんで、深夜に用を足すと流す音が下まで聴こえる。そうすると次の日「昨日お前起きてただろう」と師匠に言われそうで、それがなんか嫌で。トイレにも行けない。

内弟子は弟子も辛いけど、師匠のおかみさんも辛い思いをするんです。

入船亭扇辰師匠に『道具や』お稽古つけていただいた時に
「あんちゃん内弟子なんだってなあ」
あたしも当時は入りたての前座なりに「内弟子をやってんだ」というプライドがありまして、いやもうそれは幼いプライドですよ。

「そうです。内弟子っす!」
って胸を張って言ったら、
「大変だなあ」

内心でどうだい!!と 思ったら、扇辰師匠が

「(師匠の)おかみさんが、な」。

乗せて落とすのが扇辰師匠らしい(笑)。そんなことがありました。

内弟子3か月目でしくじったのが「買い物で余計なものを買ってきた事件」です。
内弟子だから、ずっと師匠宅にいなきゃいけないんですよ。最初の9か月間は銭湯にも行けなくて。24時間師匠宅にいたんですよ。ずっと家の仕事、それに電話番もしなくちゃいけないし。窓の外に見える自販機で飲み物を買うこともできない。
表に出られるのはたまの買い物で、おかみさんから財布預かって。近くのコンビニとかに行くわけです。こんなこと言ったら失礼ですけど、そんなに可愛くないコンビニの店員さんがもう妖精に見えるくらい「牢屋の生活」してたんてす。

ほんとに拉致だったんですね

わさび : 見習いの時はほんとに拉致でした。もう、ほんとの軟禁です。監禁に近いな。9か月間監禁です。
そんな監禁生活の中で、菓子盆のなかに「ポップライスチョコ」という個別包装のお菓子があったんです。これがあたしにとって唯一のお菓子であり、唯一の摂取できる糖分だったんですよ。それを、おかみさんもつまんでいたんですよ。ちょうどこれがなくなりそうだったから、買い物の時にメモには書いてなかったけど気を利かせたつもりで買ってきたんです。ネギとかといっしょに。

そしたら。

余計なもの買ってきやがった、という事で、その日から、菓子盆からポップライスチョコがなくなったんですよ。

僕が食べられる甘いものが完全になくなりました。

その後、師匠のカバン持ちで月1回くらい外に出ることがありました。
あるときに師匠に千円握らされて「これて自分の夕食を買いなさい。弁当とか」あたしそれで弁当買わずに、菓子パンを千円分どっさり買ったんです。
師匠は「君はそれが食べたかったのか……」。

あと「俺の鞄持って先に家に帰ってなさい」と言われて、久しぶりに一人きりになって、王子から中井にある師匠宅に帰る途中の駅のホームで、なけなしのお金でココアを買いました。

かしゅ、ゴクゴクゴク。5秒ぐらい待って、

「ふーーーーーーっ」うまい。

本当にうまい。
ずっと糖分取ってないから、もう本当にうまい。

ココアやさんがこだわって、ちゃんとココアバター使って温度管理して作ったココアより、お湯にちょっと成分が入っているだけのココアで十分うまいんですよ。
人間が飢餓の状態のときの味覚を感じたんです。

(つづく)